グローバル化の歴史と失われる日本の強み 英語教育の課題
3月6日に大阪府吹田市で、ともに神谷宗幣が代表を務める一般社団法人日本歴史探究会と龍馬プロジェクト共催の勉強会を開催しました。講師は、政治学がご専門の九州大学准教授、施光恒(せ・てるひさ)先生です。
テーマは「グローバル化の歴史と失われる日本の強み 日本語と英語の教育」
施先生は『英語化は愚民化―日本の国力は地に落ちる』との著書もあり、日本の英語化の流れに疑問を呈しておられます。
現在2020年には小学校で英語が正式な教科になる予定になっています。
このことに関して、施先生は特に中学入試に英語が入ってくることを危惧しておられます。
中学入試に英語が入ってくると、教育熱心な家庭の子ほど小学校の頃から語学留学に行くようになるかもしれません。
また、既に「教育移住」というものが話題になっているそうです。これは、海外の学校で教育を受けるために海外に移住することを言います。このままでは、英語は話せるけど日本語は怪しい、あるいは日本文化や日本人の感覚がわからない人たちが日本のエリート層になっていくのではないかと施先生は危惧しておられます。
そもそも、日本における「英語化」の流れは何も最近始まったものではありません。
明治初期には、文部大臣を務めた森有礼が日本を近代化するためには英語を公用語にするしかないと主張しています。
しかし日本は、「翻訳」と「土着化」によって日本語を用いて近代化する道を選びます。
明治初期には、西洋の学問を輸入する際に日本語の教科書や教師が不足していたり、日本語に適当な専門用語がなかったりして、英語で大学教育をせざるを得ませんでした。
しかし、徐々に専門用語を日本語に翻訳していき、それを定着させていくことで、日本語で大学教育が行えるようになりました。
施先生は、明治時代の思想家馬場辰猪の議論を引用して、英語を公用語にするデメリットを3つ挙げておられます。
1つ目は、英語の習得に多大なる時間とコストがかかるということ。
2つ目は、国の重要問題に、英語が習得できる一握りの特権階級しか関わることができなくなること。
3つ目は、社会が分断されること。英語を用いて近代化したインドでは、英語が話せる層は話せない層を小バカにしており、英語を話せないインド人は話せるインド人を同じインド人と思ってないとの状態があったそうです。
「翻訳」と「土着化」は、何も日本の近代化だけに当てはまるわけではないそうです。
ヨーロッパの近代化もまた、「翻訳」と「土着化」によって実現したと施先生は言います。
中世ヨーロッパでは、ラテン語が共通語でした。
しかし、ラテン語が使えるのは「グローバル・エリート」とでも言うべき特権階級のみでした。聖書も学問もラテン語でしか存在しなかったので、ラテン語のわからない庶民は、宗教はカトリック教会を通してのみ関われ、学問の世界からも隔絶されていました。
ところが、宗教改革によって聖書が庶民の言葉に翻訳され、近代の哲学も庶民の言葉で書かれるようになりました。
このことにより多数の一般の人々が多様な知にアクセスできるようになり、各社会に大きな活力が生まれたそうです。
この活力こそが近代社会を作り出す原動力となったと施先生は言います。
こうした歴史を紐解いてみると、一般的に「進歩」だと思われているグローバル化は「中世」への逆戻りではないでしょうか。
日本では、日本語で学問や議論ができることで多くの人々が容易に知にアクセスできます。
しかし、英語化を進めてしまうと英語が話せる一部の「グローバル・エリート」のみが政治に参加できるような社会になってしまうのではないかと施先生は危惧しておられます。
実際、グローバル化の進展とともに庶民の政治への影響力は低下し、格差も拡大していっているそうです。
施先生は、非英語圏の雄である日本は、「英語化」や「グローバル化」の波にのまれるのではなく、各国の言語・文化を生かした国づくりの支援をしていくべきであると主張しています。
多くの人は「グローバル化」はいいこと、あるいは時代の流れだから推進すべきものと認識しているのではないでしょうか。
そんな中、「英語化は愚民化」とのフレーズはショッキングだと思います。
しかし、英語で勉強をしたり仕事をしたりすると母国語の日本語でやっていた時よりもレベルが落ちるというのは、言われてみれば当たり前のことであると感じませんか。
この記事を読んで、今のまま「グローバル化」や「英語化」を進めてはまずいと感じたあなた。ぜひ施先生の勉強会に足を運んだり著書を読んでみたりしてみてください!
グローバル化が叫ばれる時代に日本人としてどう行動すべきかの指針がわかるかもしれません!
文責:福山大輔(神谷宗幣事務所インターン生)
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